アメリカこぼれ話 37
JN協会理事 北村 嵩 (元 JTB取締役)
「ヒトラーが尊敬したアメリカ人 ヘンリー・フォード 」
ヒトラーはヘンリー・フォードを崇拝し、執務室に等身大の
フォードの肖像写真を飾っていた。フォードはヒトラーが好意を
示した数少ないアメリカ人であり、若きヒトラーがその思想を形
成していく上で多大な影響を受け、敬愛してやまない人物であっ
た。一方、フォードは、ナチス党の運動を賞賛し、1922年という
早い時期から、外国人としては初めて、ナチスに資金援助をした。

20世紀初頭に自動車会社を設立し、
大量生産システムを開発してT型
フォードを製造・販売し、大衆が
購入できる低価格を実現した実業
家で、1920年代のアメリカ産業界を
代表する大立者にして時代のヒーローというものである。
しかしフォードは反ユダヤ主義的思想を抱いており、会社が順
調に大きくなった1919年に、彼が生まれた町ミシガン州ディアボー
ンで、廃刊寸前の週間地方紙『ディアボーン・インディペンデント』を
買収し、その新新聞紙上で反ユダヤキャンペーンを行った。1920年、
フォードは同紙に連載された特集記事を纏めて『国際ユダヤ人』と
いう書籍を発売した。これは帝政ロシア時代の秘密警察が民衆の
不満をそらすために作成した偽書とされる「シオン賢者の議定書」
から着想を得た本であり、フォードのような国際的に名声を博して
いる実業家がその信憑性を保証した形になり、16ヶ国語に翻訳され、
広く世界に読まれた。当時、ナチの指導者となったヒトラーもこの
本を愛読して影響を受け、ヒトラー・ユンゲルトの教材にこの本を
使用し、ナチス党員の間で聖典のように読まれた。
彼の著書『我が闘争』でも『国際ユダヤ人』を引用している箇所
がある。1930年代にアメリカから世界経済恐慌の波がドイツに押し
寄せてくると、社会に不安が広がり失業者数が増加した。この社会
不安を背景にナチスが党勢を拡大し、1933年、ヒトラー が首相に就
任した。ヒトラーが最初に手がけた政策の一つが深刻な雇用問題の
解決であった。高速道路(アウトバーン)の建設という公共事業を行
うと共に、フォードのまねをして安価な大衆車フォルクスワーゲン・
ビートルの大量生産を行った。

の国民車を購入し、自動車の普及
が消費と生産を拡大していった。
この結果、失業者数も激減してドイ
ツの不況は克服され、ヒトラーの奇
蹟と呼ばれた。ヒトラーは1938年に
感謝の意を表して、ヘンリー・フォー
ドに勲章を贈っている。
国民的英雄フォードが長期間、 大規模な反ユダヤ・キャンペーンを
行った背景には、 当時社会全体を支配していた、大量に入国した東
南欧系移民に対する排斥感情の高まりがあったのである。
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